結論:子どもが吐いたとき、最初に確認すべきなのは、緊急性のある病気(特に手術を要するもの)が隠れていないかということです。
嘔吐したら、胃腸風邪。ほとんどは、間違いではないです。
感染性胃腸炎は子どもの嘔吐の代表的な原因ですが、腸重積や腸閉塞など、急いで治療が必要な病気でも嘔吐が起こります。
特に、緑色の嘔吐、繰り返す激しい腹痛、お腹の強い張り、ぐったりしているといった症状は注意が必要です。
実際に当院で経験した嘔吐を主訴に受診したものの、胃腸風邪ではなかった例は以下のものがあります。
手術(処置)を要するもの
腸重積症
腸回転異常症
急性虫垂炎
脳腫瘍
SMA症候群
緊急入院を要するもの
糖尿病性アシドーシス
急性腎盂腎炎
そのため、嘔吐の回数だけで判断せず、症状の経過や診察所見から、緊急性のある外科的疾患を見逃さないことを大切にしています。それが、小児外科医の強みです。
必要に応じて腹部超音波検査(エコー)やレントゲン検査を検討します。
この記事では、実際の診療経験をもとに、子どもの嘔吐について保護者の皆さんに知っていただきたい判断基準を解説します。
1.実際にあった「胃腸炎ではなく腸重積だった」ケース
子どもの嘔吐は、最初に胃腸炎と診断されていても、症状が続く場合には再評価が必要です。
当院では、他の医療機関で胃腸炎と診断されたお子さんが受診し、腸重積と判明しすぐに救急病院へ紹介した症例があります。ただし、初期の頃にはその鑑別は難しく、継続的な診療が重要です。
腸重積とは、腸の一部が隣の腸の中に入り込んでしまう病気です。
腸が正常に通らなくなり、進行すると腸の血流が障害されることもあります。
腸重積の症状には、嘔吐、腹痛、顔色不良、血便などがあります。
しかし、初期には典型的な症状がそろわないこともあります。
特に重要なのは、血便が出ていなくても腸重積を否定できないということです。
また、腹痛が一時的に治まり、落ち着いて見える時間帯があることも特徴です。
この診療経験からお伝えしたいのは、他院の診断が間違っていたと断定することではありません。
子どもの病気は、時間とともに症状や診察所見が変化することがあります。
「一度診察を受けたから安心」ではなく、その後の経過を確認することが大切です。
2.なぜ小児外科医は、嘔吐で外科的疾患を最初に考えるのか?
理由は、頻度は高くなくても、診断が遅れると重大な結果につながる病気があるからです。
子どもの嘔吐では、感染性胃腸炎がよく見られます。
しかし、胃腸炎以外にも、緊急性のある病気が隠れている可能性があります。
例えば、次のような疾患です。
| 疾患 | 特に注意する症状 |
|---|---|
| 腸重積 | 繰り返す強い腹痛、嘔吐、顔色不良、血便 |
| 腸閉塞 | 緑色の嘔吐、お腹の張り、腹痛 |
| 中腸軸捻転 | 特に乳児の緑色の嘔吐、急激な全身状態の悪化 |
| 虫垂炎 | 腹痛の持続・増悪、嘔吐、発熱など |
これらの病気では、早期の診断や治療が重要になります。
そのため当院では、嘔吐を診る際に、まず緊急性のある外科的疾患が隠れていないかを考えます。
ただし、すべてのお子さんに画像検査が必要という意味ではありません。
症状の経過、腹部所見、全身状態を総合的に評価し、必要な検査を選択することが重要です。
3.嘔吐の回数よりも重要な5つの判断基準
嘔吐の重症度は「何回吐いたか」だけでは判断できません。
診療では、次の5つを重視します。
① 吐いたものの色
濃い緑色の嘔吐は、胆汁性嘔吐の可能性があります。
腸閉塞などが隠れていることがあるため、緑色の嘔吐は1回でも速やかな救急受診が必要です。
② 腹痛の特徴
腸重積では、突然強い腹痛が起こり、いったん治まったあと、再び痛くなることがあります。また、虫垂炎では、右下腹部の限局した圧痛が特徴です。
一時的に落ち着いても、繰り返す強い腹痛には注意が必要です。
③ お腹の張り
お腹が強く張っている場合、腸の内容物が正常に流れていない(腸閉そく)可能性があります。
④ 水分摂取と尿量
嘔吐や下痢によって脱水が進んでいないかを確認します。
水分が保てない、尿が明らかに減っている場合は注意が必要です。
⑤ 顔色・反応・元気さ
ぐったりしている、顔色が悪い、呼びかけへの反応が悪い場合は、緊急性が高い可能性があります。
嘔吐の回数が少なくても、これらの危険な症状があれば受診を急ぐ必要があります。
4.なぜ超音波検査やレントゲン検査を行うことがあるのか?
診察だけでは、腸の内部で起きている異常を十分に確認できない場合があるためです。
当院では、緊急性のある外科的疾患を疑う場合、症状や診察所見に応じて画像検査を検討します。
腹部超音波検査(エコー)
腸重積が疑われる場合に重要な検査です。
超音波を使って腸の状態を観察し、腸が入り込んでいる特徴的な所見を確認します。
放射線による被ばくがないことも利点です。
腸重積が疑われる場合、超音波検査は第一選択となることが多い検査です。
腹部レントゲン検査
腸閉塞などが疑われる場合に、腸管内のガスの分布や腸の拡張を確認するために使用されることがあります。
ただし、レントゲン検査だけで腸重積を確実に診断したり、除外したりすることはできません。
また、レントゲンで明らかな異常が見られなくても、緊急性のある病気が隠れている場合があります。
そのため、必要に応じて超音波検査や、さらに専門的な検査につなげることが重要です。
検査の目的は、検査をすること自体ではありません。緊急性のある病気を見逃さず、適切な治療につなげることです。
5.胃腸炎と診断されても、再受診すべき症状は?
一度胃腸炎と診断されていても、症状が続く、悪化する、普段と様子が違う場合は再評価が必要です。
特に、次の症状がある場合は速やかに受診してください。
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緑色のものを吐いた
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激しい腹痛を繰り返す
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お腹が強く張っている
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血便が出た
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顔色が悪く、ぐったりしている
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水分がほとんど取れない
-
尿が明らかに減っている
意識がない、呼吸が異常、反応が著しく悪い場合は119番を呼んでください。
「胃腸炎と言われたから大丈夫」と考えず、その後の症状の変化を大切にしてください。
6.感染性胃腸炎の場合、家庭ではどう対処する?
緊急性のある症状がなく、家庭で水分補給を試せる状態であれば、経口補水液を少量ずつ与えることが基本です。
嘔吐が落ち着いてから、小さじ1杯(約5mL)程度の経口補水液を数分おきに飲ませます。
吐かなければ、少しずつ量を増やします。
乳児では母乳やミルクも原則として継続します。
水分が取れるようになり、吐き気が落ち着いたら、食事も少量ずつ再開できます。
一方、繰り返し吐いて水分が保てない場合や、尿が明らかに減っている場合は、医療機関に相談してください。
7.保護者が診察前に記録しておくと役立つこと
嘔吐の経過を記録しておくと、診察時の判断に役立ちます。
可能であれば、次の情報を整理しておきましょう。
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いつから吐き始めたか
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何回吐いたか、最後に吐いた時刻
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吐いたものの色
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腹痛の有無と痛み方
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下痢や発熱の有無
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最後に水分を取れた時刻
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最後に尿が出た時刻
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以前の医療機関で受けた診断や検査
ただし、緊急性のある症状がある場合は、記録よりも受診を優先してください。
8.オーシャンキッズクリニックが大切にしている診療方針
子どもの嘔吐では、感染性胃腸炎を考える前に、緊急性のある外科的疾患を見逃さないことが重要です。
当院では、実際に他院で胃腸炎と診断されたお子さんが、腸重積や虫垂炎、腸回転異常などの外科的緊急疾患ではないかを最初に考えます。
こうした経験から、嘔吐の回数だけではなく、腹痛の特徴、嘔吐物の色、腹部所見、全身状態を重視しています。
小児科の視点で脱水や感染症を評価し、小児外科の視点で腸重積や腸閉塞などの可能性を考える。
そして、必要に応じて超音波検査やレントゲン検査を検討する。
「よくある病気」を考えながら、「見逃してはいけない病気」を除外する。
これが、オーシャンキッズクリニックの大切にしている診療姿勢です。
お子さんが繰り返し吐いている、腹痛が続いている、胃腸炎と診断されたけれど改善しない場合は、再度医療機関に相談してください。
緊急性が疑われる場合は、診療時間を待たず、救急医療機関を受診してください。
こども、未来、つなぐ。
オーシャンキッズクリニック
この記事を書いた医師
日比 将人|オーシャンキッズクリニック 院長(愛知県知多市)
医学博士。3つの大学病院を中心に、新生児外科、小児がん、肝移植などの高度な小児外科診療に従事。2014年、愛知県知多市にオーシャンキッズクリニックを開院。小児科と小児外科の両方の視点から、子どもの病気を幅広く診療している。特に小児の便秘診療に力を入れ、県内外から重症・難治性便秘の相談にも対応。頭のかたち外来や思春期外来など、子どもの成長・発達に関わる専門的な診療にも取り組んでいる。
この記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々のお子さんの診断や治療方針を決定するものではありません。






























