磁石2個で腸に穴が開く?実際の手術症例から小児外科医が解説
結論:子どもがピップエレキバン®などの磁石を複数個誤飲した場合、症状がなくても速やかに医療機関を受診してください。
特に2個以上の磁石を飲み込むと、磁石同士が胃や腸の壁を挟んで引き合い、腸閉塞や腸穿孔(腸に穴が開くこと)を引き起こす危険があります。
実際に、ピップエレキバン2個を誤飲した2歳6か月の女の子が、腸閉塞を起こし、緊急開腹手術を受けた症例が医学論文で報告されています。
「小さいから自然に便と一緒に出るだろう」
「元気だから、しばらく様子を見よう」
磁石の誤飲では、こうした自己判断が危険につながることがあります。
今回は、小児外科医の視点から、磁石が腸に穴を開ける仕組み、実際の事故例、誤飲した場合の対応を解説します。
1.実際にあった「ピップエレキバン2個で緊急手術になった」症例
ピップエレキバンの磁石2個によって、実際に緊急手術が必要な腸閉塞が起きています。
子どもの異物誤飲は年間数件は経験します。ほとんどは、胃の中にあり、そのまま排泄されます。500円玉を飲み込んでも排泄された経験があります。しかし、中には危険な例もあり、2016年の『日本臨床外科学会雑誌』に、川口市立医療センター小児外科の医師らが報告した症例があります。
患者は2歳6か月の女の子。
繰り返す嘔吐と、断続的な腹痛を訴えて医療機関を受診しました。
腹部レントゲン検査では、2個連なった異物と小腸の拡張が確認されました。
保護者への詳しい聞き取りから、家庭で使用していたピップエレキバンを誤飲した可能性が分かりました。
腸閉塞を起こしていたため、緊急開腹手術が行われました。
手術では、2個の磁石が結合して帯状の構造をつくり、そこに小腸が入り込んで締め付けられていました。
これは「絞扼性イレウス」と呼ばれる、腸の血流障害につながる危険な腸閉塞です。
この症例で重要なのは、腸に穴が開いていなくても、磁石2個の誤飲によって緊急手術が必要になることがあるという点です。
なお、この症例は腸穿孔ではなく、絞扼性イレウスの報告です。
出典:原田篤ほか「ピップエレキバン®複数個の誤飲により腸閉塞をきたした1例」日本臨床外科学会雑誌、2016年、77巻1号、66–69頁。
2.なぜ磁石を2個以上飲み込むと、腸に穴が開くのか?
理由は、別々の腸管内にある磁石同士が引き合い、腸の壁を挟んで圧迫し続けるためです。
一般的な小さな異物の中には、消化管を通過して自然に排出されるものがあります。
しかし、磁石は特別です。
例えば、2個の磁石が腸の異なる場所まで移動したとします。
すると、腸の壁を隔てて磁石同士が引き合い、くっついてしまうことがあります。
その結果、次のようなことが起こります。
① 磁石同士が引き合う
別々の腸管内にある磁石が、腸の壁を挟んで吸着します。
② 腸の壁が圧迫される
挟まれた部分に持続的な圧力がかかります。
③ 血流が悪くなる
腸の壁に十分な血液が届かなくなります。これを「虚血」といいます。
④ 腸の組織が壊死する
圧迫が続くと、腸の組織が傷み、壊死することがあります。
⑤ 腸穿孔が起こる
最終的に腸に穴が開き、腹膜炎などの重い状態につながる場合があります。
また、腸に穴が開かなくても、腸が締め付けられて腸閉塞を起こすことがあります。
磁石の誤飲が怖いのは、磁石自体が鋭くなくても、磁力によって消化管を傷つける点です。
3.磁石2個による腸穿孔も、実際に報告されている
磁石2個の誤飲によって、腸に穴が開いた事故も国内で報告されています。
2022年、国民生活センターは、マグネットパズルに内蔵されていた強力な磁石を子どもが誤飲した事故について注意喚起しました。
報告された事例には、次のようなものがあります。
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2個の磁石を誤飲し、腸管壁に穴が開いて手術が必要になった事例
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3個の磁石を誤飲し、胃と腸の壁に穴が開いた事例
これらはピップエレキバンではなく、強力なネオジム磁石を使用した玩具の事故です。
磁石の材質や磁力は製品によって異なります。
しかし、複数の磁石が消化管の壁を挟んで引き合う危険な仕組みは共通しています。
4.磁石1個だけなら安全?
1個だけと確実に確認できる場合は、複数個を飲み込んだ場合とは危険性が異なります。しかし、家庭で安全と判断してはいけません。
理由は、次のような可能性があるためです。
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本当に1個だけ飲み込んだのか分からない
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別の磁石も飲み込んでいる可能性がある
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磁石と金属製の異物を一緒に飲み込んだ可能性がある
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食道などに異物がとどまっている可能性がある
磁石1個と、磁石に引き寄せられる金属製の異物を飲み込んだ場合も、消化管の壁を挟んで傷つける危険があります。
また、レントゲンで1個に見えても、複数の磁石が重なっている場合があります。
磁石を1個でも飲み込んだ可能性があれば、速やかに医療機関で評価を受けてください。
5.誤飲直後に元気なら、様子を見てもいい?
いいえ。磁石の誤飲では、初期に症状がなくても重大な合併症が起こることがあります。
磁石同士が腸管の壁を挟んでいても、すぐに強い腹痛が出るとは限りません。
時間の経過とともに、腸の壁への圧迫や血流障害が進む場合があります。
注意すべき症状には、次のようなものがあります。
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腹痛
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繰り返す嘔吐
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お腹の張り
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食欲低下
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発熱
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ぐったりしている
しかし、これらの症状が出るまで待ってはいけません。
磁石を飲み込んだことが分かった時点、あるいは飲み込んだ可能性がある時点で受診することが重要です。
6.磁石を誤飲した場合、病院では何をする?
まず、磁石の数、位置、消化管への影響を確認します。
一般的には、誤飲した時刻、磁石の種類、数、症状などを確認します。
そのうえで、胸部や腹部のレントゲン検査などを行い、磁石の位置や個数を評価します。
必要に応じて、異なる方向から撮影することもあります。
ただし、レントゲン写真で磁石が1つの塊に見えても、複数個が重なっている可能性があります。
また、レントゲンだけで腸管の損傷を完全に否定することはできません。
複数の磁石を飲み込んだ場合には、磁石の位置や症状に応じて、内視鏡による摘出や外科手術などが検討されます。
腸穿孔が起きてから治療するのではなく、重大な合併症が起こる前に適切な処置を行うことが重要です。
7.子どもが磁石を誤飲したら、家庭ではどうする?
症状の有無にかかわらず、すぐに医療機関を受診してください。
家庭では、次の点に注意しましょう。
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無理に吐かせない
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便に出るまで自己判断で待たない
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下剤などを自己判断で使用しない
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医師の評価が済むまで、飲食は控えて指示を受ける
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可能であれば、同じ製品やパッケージを持参する
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何個なくなっているか、いつ誤飲した可能性があるかを伝える
受診先に迷う場合は、救急医療機関へ電話し、**「子どもが磁石を誤飲した可能性がある」**と伝えてください。
強い腹痛、繰り返す嘔吐、ぐったりしているなどの症状がある場合は、特に緊急性が高い可能性があります。
呼吸困難や意識障害がある場合は119番を呼んでください。
8.ピップエレキバンの磁石を再利用しないでください
使用済みのピップエレキバンから磁石を取り外して再利用することは避けてください。
製造元のピップ株式会社も、使用後はすぐに廃棄し、磁石を取り外して再利用しないよう注意喚起しています。
小さなお子さんがいる家庭では、使用済みの磁石が机や床、引き出しなどに残っていないか注意が必要です。
また、祖父母の家など、普段とは異なる環境でも誤飲事故が起こる可能性があります。
磁石を子どもの手の届かない場所に保管し、使用後は速やかに適切に廃棄してください。
9.小児外科医として伝えたいこと
子どもの誤飲事故では、「飲み込んだものが小さいかどうか」だけで危険性を判断してはいけません。
磁石の場合は、複数個が体内で引き合うことで、腸閉塞や腸穿孔などの重大な合併症につながる可能性があります。
そして、初期には症状が乏しい場合もあります。
ピップエレキバンのように、日常生活の中で身近に使われている製品でも、子どもが誤飲すれば危険な異物になることがあります。
小児科と小児外科の両方の視点から、こうした事故を未然に防ぐための情報を届けることも、私たちの大切な役割だと考えています。
「磁石を飲み込んだかもしれない」と思ったら、元気でも様子を見ず、すぐに医療機関を受診してください。
オーシャンキッズクリニック
こども、未来、つなぐ。
この記事を書いた医師
日比 将人|オーシャンキッズクリニック 院長(愛知県知多市)
医学博士。3つの大学病院を中心に、新生児外科、小児がん、肝移植などの高度な小児外科診療に従事。2014年、愛知県知多市にオーシャンキッズクリニックを開院。小児科と小児外科の両方の視点から、子どもの病気を幅広く診療している。特に小児の便秘診療に力を入れ、県内外から重症・難治性便秘の相談にも対応。頭のかたち外来、低身長外来、思春期外来など、子どもの成長・発達に関わる専門的な診療にも取り組んでいる。
この記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々のお子さんの診断や治療方針を決定するものではありません。
【商品名について】ピップエレキバンはピップ株式会社の商品です。本記事は磁石の誤飲事故を防止するための医学的な情報提供を目的としています。製品を正しく使用した場合の安全性や有効性を否定するものではありません。
【症例について】掲載した手術症例は、医学論文・公的機関に報告されたものであり、当院で診療した症例ではありません。
【医療上の注意】磁石の誤飲が疑われる場合は、本記事を読んで様子を見るのではなく、速やかに医療機関で評価を受けてください。





























