「ワクチンを受ける前にインフルエンザにかかってしまいました。もう今年はインフルエンザワクチンを受けなくてもいいですか?」
診察室で、このようなご相談を受けることがあります。
結論から言うと、8月や9月にインフルエンザにかかった場合でも、そのシーズンのインフルエンザワクチン接種はおすすめします。
一度インフルエンザにかかると、「もう免疫がついたから大丈夫」と思われるかもしれません。しかし、インフルエンザにはA型・B型があり、さらにA型の中にもH1N1、H3N2など複数の種類があります。CDCも、現在のインフルエンザワクチンは主にA型2種類とB型1種類を含む3価ワクチンであると説明しています。
つまり、8月にA型インフルエンザにかかったとしても、冬に別のA型やB型にかかる可能性があります。CDCは、ワクチンの効果があるウイルスが一部で低下していても、ほかに流行しているインフルエンザウイルスによる発症予防には役立つ可能性があると説明しています。
インフルエンザは「一度かかったら終わり」ではありません
インフルエンザは、同じシーズンに一度かかったら二度とかからない、という病気ではありません。
実際には、A型にかかったあとにB型にかかる、あるいは違う株のインフルエンザにかかることがあります。WHO東地中海地域事務局も、同じシーズンにインフルエンザにかかった後でもワクチン接種は推奨され、複数の株が流行するため再感染する可能性があると説明しています。
特に、8月・9月の感染は、冬本番の流行よりかなり早い時期です。
その後、10月、11月、12月、1月、2月、3月と、学校、保育園、学童、塾、部活、受験、帰省などで感染機会は続きます。
「もう一度かかるかもしれない期間」が長く残っているため、早い時期に感染したお子さんほど、冬に向けたワクチン接種を考える価値があります。
夏や秋にかかっても、冬の流行に備える必要があります
近年、インフルエンザは冬だけでなく、春や夏にもみられるようになっています。
2026年8月には、神奈川県で第33週、8月10日〜16日の定点当たり報告数が1.37となり、流行開始の目安である1.00を超えたと発表されています。
夏休みや秋にインフルエンザが出る背景には、旅行、帰省、部活、合宿、学童、塾、習い事、海外との人の移動などがあります。
しかし、冬は気温や湿度、室内環境、学校生活などの影響で、さらに大きな流行が起こりやすくなります。
そのため、8月や9月にインフルエンザにかかったからといって、冬の予防をやめてよいわけではありません。
ワクチンは「かからないため」だけでなく「重症化を防ぐため」にも大切
インフルエンザワクチンは、接種すれば絶対にインフルエンザにかからない、というワクチンではありません。
しかし、発症リスクを下げるだけでなく、かかった場合の重症化、入院、死亡のリスクを下げることが期待されます。
CDCは、インフルエンザワクチンにより、インフルエンザによる発病、医療機関受診、学校や仕事を休む日数を減らし、かかった場合にも症状を軽くし、入院や死亡を減らすことができると説明しています。
日本小児科学会も、2023/24シーズン以降、国内でインフルエンザ患者が増えていることをふまえ、インフルエンザワクチン接種を推奨しています。
接種はいつからできる?
インフルエンザにかかった直後で、まだ発熱、咳、だるさ、食欲低下などが強い時期は、ワクチン接種は急がず、まず体調の回復を待ちます。
目安としては、発熱がなく、全身状態がよく、食事や水分がとれていて、普段の生活に戻ってから接種を検討します。接種の具体的なタイミングは、年齢、持病、流行状況、受験や行事の予定、ワクチンの種類によって変わるため、診察時にご相談ください。
ワクチンの免疫ができるまでには一定の時間がかかります。CDCは、インフルエンザワクチン接種後、体内で防御に関わる抗体ができるまで約2週間かかるとしています。
そのため、「流行してから考える」よりも、「冬の流行前に早めに準備する」ことが大切です。
フルミスト®と注射ワクチン、どちらを選ぶ?
インフルエンザワクチンには、注射の不活化ワクチンと、鼻にスプレーする経鼻弱毒生ワクチン「フルミスト®」があります。
日本小児科学会は、2歳以上19歳未満に対して、注射の不活化インフルエンザHAワクチン、または経鼻弱毒生インフルエンザワクチンのいずれかを同等に推奨しています。ただし、喘息があるお子さんなどでは注射ワクチンが推奨される場合があります。
フルミスト®は、対象年齢では1シーズン1回接種で、鼻にスプレーするため注射の痛みがありません。日本小児科学会の予防接種スケジュールでも、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは2歳以上19歳未満にシーズン毎1回とされています。
注射が苦手なお子さん、受験や部活で予定が立てにくいお子さん、兄弟で通院回数を減らしたいご家庭には、フルミスト®は選びやすい選択肢です。
こんな方は特に接種をおすすめします
8月・9月にインフルエンザにかかった後でも、次のような場合はワクチン接種をおすすめします。
受験生で、冬に大切な試験がある。
保育園、幼稚園、学校、学童、塾、部活など集団生活が多い。
兄弟が多く、家庭内感染が心配。
喘息などの持病がある。
家族に乳幼児、高齢者、妊婦さん、基礎疾患のある方がいる。
冬の流行時期に旅行、発表会、大会、入試など大切な予定がある。
インフルエンザ予防は、本人だけでなく家族全体の問題です。
お子さんがかかると、兄弟や保護者に広がることもあります。反対に、家族から受験生や乳幼児にうつることもあります。
まとめ
予防接種前にインフルエンザにかかった場合でも、特に8月・9月のような早い時期の感染であれば、その後のシーズンに向けてインフルエンザワクチン接種をおすすめします。
一度感染しても、別の型や別の株のインフルエンザにかかる可能性があります。
また、ワクチンには発症を減らすだけでなく、重症化や入院を防ぐ効果も期待されます。
「もうかかったから今年は不要」と考えるのではなく、冬の流行、受験、部活、家庭内感染を見据えて、早めに予防を考えましょう。
お子さんの体調が回復したら、フルミスト®または注射ワクチンのどちらが適しているか、小児科でご相談ください。






























